平成13年5月5日:画像更新


今は廃刊となったBLUEGRASS REVIVAL誌にHeadway社長のインタビュー記事がありました。Headwayのギター製造に関する姿勢・考え方がよくわかります。(資料提供:福山、後藤さん)



 

BLUEGRASS REVIVAL19814月号(No.43)

ウェイ・オブ・ライフ・・・・納得できるものをつくりたい。

株式会社ヘッドウェイ社長 八塚 恵氏インタビュー
 

零下12度を知らせるニュースを横目で見ながら長野県の松本駅を出た。吐き出す息は白さが増しているようだが、これは気のせいだろう。ここには「ギターを作っている面白い社長がいるよ」と知人に知らされて、はるばる出張先の大阪から遠征だ。楽器作りは素敵な商売−そう思っているのだが、それも外見からだけ見た場合だろう。会見を申し入れて15分タクシーに乗ったら着いた。アノラックを着て、アポロ・キャップをかぶったイキのいい男子が電話を相手にしきりに口を動かしていたが、彼が社長だった。面白いというよりも、若い方に気を取られたが、何となく話しているうちに乗り始めて、このインタビュー記事となった。

(問) 最近の生楽器を販売している人は皆「売れなくて困った」と言うけれど。

(答) 生意気なことを言うけど、売れるものを作っていないからだ。5年先、10年先を見つめてまじめにコツコツとやらなければいけないのに、ギター業界は明日を考えているとは言いきれないし、そうして来なかったから現在が悪いのだ。だから、もっと厳しくなるかもしれない。

(問) たとえば「今年は5万円以下が売れたな」という業界の発表があれば、ゾロゾロ4万円ぐらいのものが店頭に溢れるほど並んでしまったり…。
 

(答) ギター作りに対する観念の問題だろう。ユーザーが喜んでくれるギターだったら絶対に売れる。美しく、上品で、強く、音が大きく、バランスもいい・…こういうものだったら買ってくれるはずだ。ただ日本の多くの場合、メーカーや扱う問屋のエゴで動くから売れなくなっているのではないか。

(問) エゴとは?

(答) たとえば、材料その他で2万円かかったから、これは5万円以上で売ろう。逆に5万円かかってもこれは4万円で売らなければならないというように、価値と価格がバラバラなのが現在の状態ではないだろうか。ヘッドウェイで言えば、10万円以上の製品は明らかに違うが、7万円のギターと5万円のを比べた場合、これは5万円の方が得なのです。何故かと言うと、製作上の手間が同じだし、もちろん職人の気持ちも同じだから、はっきり言って、1万円、2万円の差を微妙に製作することはヘッドウェイでは無理だということだ。どんな価格で売ろうがこれは自由なのであって、いいけれど、価値と価格が開きすぎているようなものはいただけない。

BLUEGRASS REVIVAL19816月号(No.45)
HEADWAY 12 STRINGS AD
(問) 価格と価値についていえば、今ぼくが愛用しているギターは13年くらい前のマスターで、確か3万円で買ったと思う。自分にぴったりの音がしていて、雨にさらされたりしたけどあまり狂わず、枯れている分だけ他の国内産ものよりは大きくていい音がしている。3万円を考えたら、もう非常に得をしている。

(答) 13年前の3万円は決して安くはない。しかし、適当な利益を計上しながら情熱を込めて、いいギターを作ろうとしたなら3万円は適切な価格だろう。現在をそれになぞらえるとしたら、やはり10万円はかかってしまう。ヒョロッと楽器店へ飛び込んでちょっといいギターを、と思ったら10万円以下の中からでは探すことが困難だろう。

(問) あなたが「やはりこれはいい」と思ったギターはありますか。
 

 (答) マーチンだね。くやしいけどギター作りのレベルが高い。出来る限りマーチンの良さを見習いながら日夜努力をしているというのが、日本のギター(フォーク)作りの現状だろうが、しかし、マーチンだって完璧ではないのだから、その辺をよく頭に入れてかからないと失敗する。

(問) よく「マーチンと同じものは出来るんだ」と言うメーカーがいるけど、実際出来るものだろうか。

(答) それはまず無理だ。アメリカのペンシルバニアの工場の中で作ったら、それこそ同じものが出来るだろうが、日本で同じものが出来る訳がない。また同じものを作ったとして、それが何になるのだろうか。何の意味も持たない。確かにヘッドウェイでも技術部長の、百瀬が必死になったことがあったが、それは何の意味ももたないのに気が付き、止めた。ただ努力しただけの価値はあった。多くを教わったから。やはりマーチンと同じものを作るんだという気持ちでいてはいいものは出来ない。マーチン以上のものを、という気でやらなければ。

BLUEGRASS REVIVAL19818月号(No.47)
HEADWAY ORDER MADE UITAR AD
 
(問) そもそもあなたのその気概をウワサで知って、今日伺った訳ですが、ギターを作ろうと思ったきっかけは何ですか。

(答) 私は職人ではないので作れない。しかし、自分の頭の中ではこうすればいいギターが作れるのではないかというイメージがあった。はじめはそれをギター・メーカーに委託していたが思うようなものが出来ず、ついに何から何まで自分でやるようになった。昭和526月のスタートで、3年間は採算を度外視ではじめた。あらゆるもので6千万円以上かかった。予定した額の倍の金額だったから、かなり苦しかった。しかし現在は月産200本の製品が毎月完売出来るほどにまで成長したから、多少は楽になっている。近い将来、150本、120本に落として、一本にかける時間を増やして、納得のいくものを作って、世界一になりたい。

(問) いいギターを作るのには、販売面も併せて、いい仕事をしなければなりませんが、素地はあるのですか。
 

(答) 私が販売のプロですし、製作の方ではまずギター作りを考えた時点で優秀な職人を選んで雇い入れることからはじめているので、最高の人材を得たと思っている。木(材料)を見るプロ、ギターを作れるプロ、塗装のプロと大まかに言えば3人のキー・マンが必要だ。ここから枝葉に分かれて、工程が進行して一本の製品になるが、ウチでは140の工程を13名の人間が分けあって進めている。大きな量産工場と違い、今日、明日、明後日とこなす仕事が毎日違っている。もう一つ他メーカーとの大きな違いは、下請業者をいっさい使っていないところだ。従って、時間もコストもかかるが、大量生産しないからこれが出来る。じっくりやればいいことだ。自分で業界に飛び込んでからすぐに感じたけど、商売最優先のやり方に飽き飽きしていたし・・・・・。のんびりやりますよ。

(問) 商売の流通経路についてはまたの機会にして、せっかくこんなにいいものを作ったのユーザーはわかってくれない、なんてこともあり得るでしょうね。
 

BLUEGRASS REVIVAL19828月号(No.55)
HEADWAY ELECTRIC MANDOLIN(4STRINGSAD

(答) それは大いにありますね。私達メーカーは、口幅ったいけど、かなりいいものを店に届けているつもりだけど、なかなか理想的な反応が返って来ない。エレクトリックが、キー・ボードが、と流行に左右される様子が、見ていると少々残念だ。音楽の現場にいるあなた達ががんばってくれないと。

(問) どんなユーザーに焦点をあてているのですか。

(答) 2本目、3本目を買う人を対象にしている。はっきり言わせていただくと、初心者には買っていただくていい訳なのです。価値がわかる人に弾いて欲しい。初心者を対象にしていると、ヤマハ、東海、モーリスなどの大手と競合するのだから、これは全く私達のポリシー以外のことだ。私達は大手の手の届かない部分で力をつけて生き抜く以外に手がないのだ。その意味でユーザーを絞っている。こういう世界に入ってみてわかることだが、ヤマハというメーカーは絶大なのですよ。そうする以外に方法はないんですよ。(笑)

(問) あなたのポリシーは自然にわかってしまいましたが・・・・・。

(答) わかる人が弾いて納得できる楽器でありたい。将来は小さくてもピリッとした、光っている存在に出来れば理想だ。でも、それは誰にもわからない。跡形もなくなっていることも考えられるからネ、ハハハ。

(問) ギターを作るポイントは?

(答) それは音です。バランスは非常によくても音が小さい。よくあることだがこれはダメで、やはり大きい音でいいバランスを目指さないといけない。それから、ヘッドウェイの場合は、細部への心配りですね。ネックのつなぎ目とか、目に見えないフィニッシュに神経を遣うのが、楽器作りのハートだと思う。それと、これはまぁカッコいいけど、お客さんに永久的に使っていただくために、この一本しかないという気持ちで仕事をしている。

(問) 技術的に特長箇所をあげてくれませんか。 (答) これは話しても理解出来る読者は少ないだろうが、それでもいいなら。まず8日を一単位として工程が進行している。初工程から出荷まで3ケ月。うち塗装に1カ月かけている。ネックのつなぎはマーチン、ラルビーと同じ「アリ仕込み」にしている。これは音の良さと強度の点で最高の技術です。それに仕上がりが美しい。ネックは調節のきく鉄芯を入れてあるが、外からは見えない。マーチンも四角の鉄芯を入れてあるが、しかし調整がきかない。そして意外にもネックが非常に弱いのです。指板を削ったり、熱したりして直すが、結局のところ完全には元に戻らない。ウチはこの弱点をおぎなって調整出来る鉄芯にした。しかし、あまりネックのトラブルは持ち込まれないようだ。塗装はウレタン・クリアーを使っている。国産には良質のラッカーがないので、同じような種類のこの塗装を使っている。ポリエステルを使うところもあるようだが、これは硬いため音に良くない。フォーク・ギター(ドレッドノート・ギター)は表裏の対比が非常に難しい。ウチでは表甲のスプルースを2.8mmの厚さにして、材料の硬さ、柔らかさによって力木のエグリを変えている。出荷直前でもこのバランスは調整する。

(問) ピックアップ付ギターについては、どんな考えを持っていますか。

(答) はっきり言ってやりません。生ギターでなくなるから。

(問) 最後に何か一言。

(答) ミュージシャンは何故ヤマハのギターだけ持つのか。これには実際頭に来ている。

 

BLUEGRASS REVIVAL19828月号(No.55)
 

ヘッドウェイから、この秋に新製品三本が発売される。HD115SPECIAL15万円)。これは従来の115をグレードアップしたものだそうで、例えば一本ネックのするなど、限定で30本だけの発売だという。

二本目はトリプルオー・タイプのカッタウェイ(15万円)。音楽の多様化に合わせたオール単板のプロフェショナル向き。

そして三本目ラストは、サウンドホールを大きくしたトニー・ライス使用のモデル。以前トーカイからクラレンス・ホワイト・モデルが出されたことがあったが、「それの改良モデルと考えていただきたい」とヘッドウェイでは語っている。「穴をただ大きくすると、どうしても低音が死ぬので、低音を出すためにはブレイシングとか、いろいろな部分の改良を施さなければならないのです」だという。いずれにしても早く見たいものだ。このギターは910日、カッタウェイは91日、HD115SPECIAL820日にそれぞれ発売される。
 

BLUEGRASS REVIVAL1982年9月号(No.56)
115SPECIALHC-615 AD
BLUEGRASS REVIVAL198212月号(No.58)
CW-117 AD

 

BLUEGRASS REVIVAL19814月号(No.43):原稿画像1


その他写真)

(1)ラピタ19964月号(小学館)/ニッポンのマーチンは、いまどうしているのか

(2)Hot-Dog Press(講談社)198011月号/アコースティック・ギター・ブック
 
 

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